徳島地方裁判所 昭和63年(行ウ)12号 判決
原告
圃山靖助
右訴訟代理人弁護士
井上善男
同
阪口徳雄
同
小田耕平
同
山本勝敏
被告
(徳島県知事) 三木申三
同
(徳島県議会事務局長) 永岡豊
同
(前徳島県議会議長) 川添文男
同
(徳島県議会議長) 阿川利量
同
自由民主党・県民会議
右代表者会長
原田弘也
被告
社会党・県民会議
右代表者会長
日下久次
被告
公明党県議団
右代表者幹事長
高根安夫
右被告ら訴訟代理人弁護士
島内保夫
"
事実及び理由
第三 当裁判所の判断
(本案前の判断)
原告の被告川添、同阿川及び同永岡に対する訴えは、法二四二条の二第一項四号に基づく普通地方公共団体に代位して行う当該職員に対する損害賠償請求と解されるが、右被告三名は、右訴えにおいてその適否が問題となっている財務会計上の行為(本件調査研究費の交付決定及びその支出)を行う権限を法令上本来的に有するとされている者ではなく、また知事から権限の委任を受けるなどして右権限を有するに至った者でもないから、これらの被告に対する訴えは法二四二条の二第一項四号所定の「当該職員」に該当しない者に対する訴えとして不適法であり、却下を免れない。
(本案の判断)
一 争点一 (本件県政調査研究費の交付決定及びその支出の違法性の有無)について
1 〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
(一) 徳島県は、近年県政が複雑化、高度化、多様化し、議員のみならず議会各会派においても、不断の調査、研鑚が必要とされる事態が生じていることから、その資とするため、昭和五一年一〇月本件要綱を定め、法二〇四条の二の補助金として、議会の各会派に対し、県政調査研究費を交付することを定めた。これによれば、県政調査研究費は、議員に対しては交付しないとされている(二条一項)ものの、所属議員が一人の会派にも交付するものとされ(一条)、交付の対象は、会議費、調査研究費、研修費、資料作成費、資料購入費、広報費、事務費とされ(二条二項)、それ以外には使用することができないものとされている(六条)。また、その交付額は、所属議員数に応じて算定した額をもって限度とされ(四条)、具体的な交付手続は、交付を受けようとする会派の代表者が所定の申請書に収支予算書と事業計画書を添付して四月一〇日までに当該年度分の交付を申請し(七条)、知事の交付決定、交付指令を受けて(八条)、所定の請求書に毎月二〇日までに当月分の請求をし(九条一項)、速やかにその交付を受けるものとされている(九条二項)。そして、現実に交付を受けた額については、年度末に各会派から提出された収支決算報告書と領収書等の書類に基づいて確定手続を行い(一二条一項)、これにより剰余が生じたとき、又は交付対象経費以外の経費に充てられたことが判明したときは、その全部又は一部の返還が命じられることがあるとされている(一二条一項)。
(二) この県政調査研究費は、当初予算(二月定例県議会)に議会費として計上され、議会の議決を経た後、前記のような手続を経て各会派に交付されている。このような制度は徳島県以外のその余の都道府県全部においても実施されており、国会においても、「国会における各会派に対する立法事務費の交付に関する法律」(昭和二八年七月七日法律第五二号)として実施されている。徳島県は、これらの実施状況を勘案して、その交付額の基準となる議員一人当たりの金額を、当初五万円と定めた後、昭和五四年一〇月以降七万円に、昭和五六年四月以降一〇万円に、昭和五九年一一月以降一五万円に、昭和六三年四月以降二〇万円に増額している。
2 ところで、原告は、本件県政調査研究費の支出決定及び交付が違法かつ無効であると主張するので、以下順次判断する。
(一) 法二〇四条の二違反の主張について
原告は、本件県政調査研究費の交付は議員に対する給与にほかならないから、法律上の根拠なくしてこれを交付することは法二〇四条の二に違反すると主張する。しかし、前認定のように、本件県政調査研究費は議会の各会派に対し交付されるものでり、議員に対し交付されるものではないから、これに法二〇四条の二の適用があるものとはいえない。原告は、県政調査研究費の交付額が各会派の所属議員の数に応じて決められることを理由に、これが議員に対する報酬であると主張するが、右は交付額を合理的に決定するために採られた手段にすぎず、交付の対象者はあくまで会派であるから、これをもって議員に対する報酬であるとみることはできない。
(二) 法二三二条の二違反の主張について
原告は、本件県政調査研究費は交付目的を限定することなく交付されているから、法二三二条の二に違反すると主張する。しかし、前認定のとおり、本件要綱は県政調査研究費の交付対象を七つに限定し、使途をこれに限っている上、その交付申請に当たっては申請書に収支予算書と事業計画書を添付すべきことを定め、これが適当と認められた場合に交付決定をし、年度末にはその交付額の確定手続を行って対象外の目的に使用したことが判明した場合には返還を命じることがあるとしているのであるから、本件県政調査研究費は交付目的が限定されて交付されているものというべきである。
(三) 本件要綱の違法性の主張について
原告は、本件要綱は法的根拠に基づくものとはいえないから違法であると主張するが、現行法上、法二三二条の二の補助金として支出される県政調査研究費の交付手続を法令で定めなければならないとする規定は存しないから、これを要綱で定めたとしても違法とはいえない。また、原告は、本件要綱が調査研究費を会派に交付し議員には交付しないと定めていながら、所属議員が一人の会派にも交付する旨定めているから矛盾していると主張するが、このような所属議員が一人の会派であっても、選挙によって二人以上になる可能性はあるのであるし、実際には議会外の政党その他の政治団体と提携して議会活動を行っているのが実態であるから、このような点に着目して、右のような会派に県政調査研究費を交付すると定めたとしても、それなりの合理性があり、これを議員に交付しないと定めていることと矛盾するものとはいえない。また、原告は、本件要綱は、使途に充てることのできない支出について何らの規定、例示を置いていないから、事実上使途勝手が許される結果となっていると主張するが、本件要綱が交付の対象、交付手続、交付額の確定手続等の定めを置いていることは前認定のとおりであって、使途勝手が許されているということはできない。さらに、原告は、本件要綱によれば県政調査研究費は毎月交付すると定められているのに、実際は当初予算に計上され、予算額どおり決定交付されていることを問題とするが、本件県政調査研究費が当初予算に計上されるのは法二一〇条の総計予算主義に基づくものであるから、これに何ら問題はない。
(四) 県議会議員の報酬と本件県政調査研究費の不法性の主張について
原告は、本件県政調査研究費を交付することは、県政に関する調査研究費を四重に支払うことになり法二〇三条関係の行政実務に違反すると主張するが、議員報酬に含まれている県政に関する調査研究費、議会活動費、委員会活動費は、本件のように、会派に交付される県政に関する調査研究費とは性格を異にするものであるから、本件県政調査研究費を会派に交付したとしても、県政に関する調査研究費を四重に支払ったことにはならない。
(五) 県政調査研究費増額の根拠不存在の主張について
原告は、県政調査研究費が昭和六三年四月以降、一人当たり一五万円から二〇万円に増額されたことを問題とするが、この増額は他都道府県の月額基準額(一五万円ないし四五万円)を参考にして決定されたものである上、増額後も金額は全国的にみて高いものともいえないから(〔証拠略〕)、これをもって違法ということはできない。
(六) 公益性の不存在の主張について
原告は、本件県政調査研究費の交付は公益性がない旨主張するが、徳島県議会における議員の議会活動は会派を中心として行われていることが認められ(〔証拠略〕)、このような会派が県政についての調査、研究を行い、その結果を議会活動に反映させることは有意義なことであると考えられるから、これに本件県政調査研究費を支出することは県民の利益にかなうものであり、公益性がある。
(七) 憲法九二条違反の主張について
原告は、各会派が知事の管理執行権が及ぶ県政調査研究費の交付を受けることは、知事の議会に対する支配的影響力を与える結果となるから、憲法九二条に違反すると主張する。しかし、前認定のように、県政調査研究費は、本件要綱に基づき交付され、その交付額も予算の範囲内で所属議員の数に応じて決定される建前になっているのであるから、知事が本件県政調査研究費の交付を通じて議会に支配的影響力を及ぼすということは現実には考え難く、これに憲法九二条違反があるものとはいえない。
(八) 使途非公開の違法性の主張について
原告は、県政調査研究費が適正に使われたかどうかについてはこれを検査する機関も方法もないから、本件県政調査研究費は適正な使用目的に使われたとはいい難いと主張する。しかし、前認定のように、本件要綱は県政調査研究費の交付を受けた各会派に、収支決算報告書を提出するよう義務付けて、県政調査研究費が適正に使われたかどうかを事後審査する建前になっているから、これが適正に使われたかどうかを検査していないとはいえない。また、本件県政調査研究費が適正な使用目的に使われなかったと認めるに足りる証拠はない。
(九) 憲法八九条、政治資金規正法違反の主張について
原告は、法的根拠に基づかずに本件県政調査研究費徳島県議会各会派に交付することは憲法八九条に違反すると主張する。しかし、徳島県議会の各会派は、憲法八九条にいう、宗教上の組織、団体でも、慈善、教育、博愛の事業を行う組織、団体でもないから、これに県政調査研究費を交付したとしても、憲法八九条に違反するものとはいえない。また、原告は、徳島県議会の各会派は、政治資金規正法三条にいう政治団体にあたるとして、徳島県選挙管理委員会に届出をしていないこれらの会派に県政調査研究費を交付することは同法八条に違反すると主張する。しかし、同法八条は、届出前の政治団体に隠密裏に政治資金を流通させることを禁止する趣旨に出たものであるところ、前認定のように、本件県政調査研究費は、県政に関する調査研究の推進に資するため、知事の審査を経て予算の範囲内で交付されるものであるから、これに同法八条の適用はない。
3 以上のとおりであって、本件県政調査研究費の交付決定及びその支出に原告の主張するような違法、無効はない。
二 そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告三木、同自由民主党・県民会議、同社会党・県民会議、同公明党県議団に対する請求はいずれも理由がない。
(結論)
よって、原告の被告川添、同阿川及び同永岡に対する訴えは不適法であるからこれを却下し、その余の被告らに対する請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 朴木俊彦 裁判官 近藤壽邦 白神恵子)